カオス9:カオスであるか,そうでないか?

現在のカオス研究

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ダイナミックスには色々な種類がある.複雑なものも簡単なものもある.これらすべてをよりよく理解するために,パラメータaに依存する空間上のベクトル場について,パラメータを変化させよう.ダイナミックスは簡単になったり,複雑になったりする.この分岐現象は,どう理解されるのだろうか?自然界で最もよく起こる現象はどういうものなのだろうか?

これは数学者への良い問題だ.パラメータaの値が変化するときに,アトラクタの位置の変化を観察すると,分岐図式と呼ぶレース編みのような図が得られる.美しい図だが,理解するのは容易ではない!

もちろん数学者は,常に成立する定理を求めている.しかし,具体例の研究から始め,簡単な例で成り立つことが,一般に成立することを密かに望んでいることも多い…

前に見たように,1つの球を通過する時間の割合は初期条件にかかわらずある値に収束する:それが,ローレンツ(1917-2008)の考え方であり,シナイ・ルエル・ボーエン測度であった.このことが常に正しいと期待できるだろうか?

実際,それは成り立たないことが,ルフス・ボーエン(Rufus Bowen, 1947-1978)が発見した簡単な例からわかる.しかしビデオでは,その例は非常に特殊であるので,我々の考え方をあきらめなければならない理由は全くないことを示してる.

1990年代にブラジル人数学者ジャコブ・パリス(Jacob Palis, 1940-)は,考えるべき問題のすべてを整理した.もしこれらの問題が解ければ,カオスの全体が理解できるというものだ.パリスの予想は数学的な厳密な命題で技術的なものでもあるが,ビデオではその考え方のいくつかを取り上げている:

  • 典型的なベクトル場はアトラクタの数が有限個であるという性質を持つ;
  • 典型的な初期条件に対しては,軌道はアトラクタの1つに引き寄せられる;
  • それぞれのアトラクタはシナイ・ルエル・ボーエン測度をもち,そのアトラクタに引き寄せられる軌道が漸近する統計量を記述している.

多くの数学者が精力的にこれらの予想に取り組み,少しずつ,体系的な解決が進んでいるようだ.しかしまだ多くの課題が残されている…

現在では,もう誰も決定論を各軌道の動きを決めるものとは考えていない.それは,軌道全体の動きを決めるものと考えているのだ.軌道の初期条件への鋭敏な依存性は軌道全体の統計的な安定性により埋め合わされている.この考え方は楽天的過ぎるだろうか?時間が解決する問題だ.

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