カオス8:統計

ローレンツの水車

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CHAOSの最終章の前に,この章では,初期条件に鋭敏に依存する問題に対して,建設的な解決方法があることを示す.それは,ローレンツ(1917-2008)の真の主張であるが,残念ながら一般市民にあまり知られていない.

« より一般的に,何年間も見れば,小さな変動は竜巻のような気候現象の発生頻度を増やしも減らしもしないと考えられる.小さな変動で変わりうるのは,これらの現象が起こる順序である. »

空間の3つの球体が,竜巻,猛暑,雪が起こっていることに対応しているとして,3つの勝手にとった初期条件に対し,それぞれの球体を通過する時間の比率を見てみる.竜巻,猛暑,雪の起こる順序は,まったく理解できない順序でそれぞれの軌道で異なっている.しかし,それぞれの球体を通過する時間の比率は同じ極限に収束する.ローレンツの主張は正しいようだ.

ハワードとマルカスという2人の物理学者の協力を得て,ローレンツは現実の気候現象からは遠いものだが,非常に具体的に現実の物理系:水車を作り上げた.各時刻の水車の状態は3つの数値で記述される:水車の重心の2つの座標と水車の角速度だ.どうなるだろうか?まず最初に初期条件への鋭敏な依存がわかる.そして3つの数値が描く曲線は,蝶の形の図形になる…

水車についてローレンツの直感が正しいかどうか確かめよう.2つの水車をほとんど同じ状態から運動させ,1秒間に25回速度を測り,棒グラフに表そう.今度はどうなるだろうか?ローレンツが予想したように,統計の独立性が見られ,棒グラフは同じ形状に収束する.

軌道の将来についての統計的数値が初期値にほとんど依存しないとき,ダイナミックスはシナイ・ルエル・ボーエン測度,SRB測度を持つという.気象予報士の目標は,この統計的数値を求めることだ.

ローレンツ・アトラクタはSRB測度を持つ.温度は不規則に変化しているようだが…それは定まった確率のもとで変化しており,その確率を求めることが現在の問題なのである!我々の願望を統計の問題として解決することにより,ローレンツは,バタフライ効果の問題を回避し,科学が予言を続けることができることを示した.

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