カオス2:ベクトル場

レゴの競争

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17世紀の終わり,ライブニッツ(Gottfried Wilhelm Leibniz, 1646-1716)とニュートン(Isaac Newton, 1643-1727)は、素晴らしい数学の道具を独立に完成させた:無限小解析あるいは微分法と積分法だ.これは,システムの運動が微分方程式で書かれれば,信じられないほど有効に未来を予言する水晶玉というべきものである.CHAOSの第2章では,レゴの世界における,微分法,積分法の導入方法を紹介している.

歩いているレゴの速度をどのように定義したらよいであろうか?ある移動の平均速度は,もちろん,移動距離とその距離の移動にかかった時間の比である.レゴの1歩1歩に対し,1歩の平均速度を計算することができる.

しかしそれでは,車輪が回っている自動車の速度とは何だろうか?その手掛かりは,自動車の動きは,ぎくしゃくした動きの極限であると考えることである.自動車の1歩は見分けがつかないほどに非常に小さく,無限に近いところへの1歩であり,それがつながっていると考えることである.これが微分法の基礎にある考え方である.

川の流れを考えよう.川の各点に対し,水の速度を計算し,その点から出る矢印を,方向が流れの方向であり,長さが流れの速さとなるようにとって,各点における速度を表すことができる.1つの矢印はベクトルと呼ばれるが,川の各点に矢印が決まるから,数学者がベクトル場と呼ぶものになっている.

積分法は,微分法の反対の操作である.ベクトル場に対して,軌道を構成する必要がある.ビデオでは,レゴたちが与えられたベクトル場に従って移動していくことによって,レゴのそれそれの運命に従うように定められている様子を示している.正確な数学の命題は,コーシー・リプシッツの定理として知られており,決定論をまとめたものになっている:ベクトル場と出発点が与えられたとき,この点から出発する軌道で,すべての点でベクトル場に接しているものが,ただ1つ存在する.

ここで定義した科学的決定論には限界があることがすぐにわかるが,ビデオでは非常に簡単な例を使ってそれを示している.1879年,物理学者マクスウェル(James Clerk Maxwell, 1831-1879)は,物理現象が初期条件の変化に鋭敏に応答することを強調して次のように述べている.

« ある格言によれば,同じ原因は常に同じ結果を生む[…].この格言と混同してはいけない別の格言によれば,同じような原因は同じような結果を生む.このことが正しいのは,初期状態における小さな変化がシステムの最終状態に小さな変化しか引き起こさないときだけである.多くの場合にこの条件は満たされているが,そうでない場合もあって,そのときには,初期状態における小さな変化がシステムの最終状態に非常に大きな変化を引き起こしうるのである. »

最後に,宇宙船の操縦席でレゴたちは,空間に描かれたベクトル場に従って移動することにかかりきりになっている.この映像は状況が実際に非常に複雑になることを納得させるに十分である…

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