カオス4:振動

ブランコ

前の章へ 次の章へ

振り子をどのように記述すればよいだろうか?錘の位置は,垂線に対してなす角度という数値で表される.速度についても,1つの数値で表すことができ,その符号は運動の方向を表す.摩擦がなければ,振り子は永久に揺れ続けるであろう.このことにガリレオ(Galileo Galilei, 1564-1642)は若い時から気付いていた.しかし,その摩擦のために,驚くにはあたらないが,振り子はやがて静止する…

それでは,もっと現実的な,ブランコを漕いでいる状況を考えよう.先ほど述べたように摩擦によってブランコは遅くなる.その時に,加速するように,そして高く上がるようにブランコを漕がなければならない.しばらくすると,ブランコは再び遅くなり,また新たに加速しなければならないのである.各時刻のブランコの位置と速度を測り,それをグラフに表示すると,相図というものを描くことになる.相図には運動の周期性を表す閉曲線が描かれる.ポアンカレ(Henri Poincaré, 1854-1912)が極限サイクルと呼んだものである.

1930年代に提案されたロトカ・ボルテラ(Lotka-Volterra)のモデルは,同じ地域に住む2つの種の個体数を記述するもので,極限サイクルが現れるもう1つの有名な例だ.アヒルがスイレンを食べるという幻想的な状況で,たくさんのスイレンがあるときは,アヒルは十分な食べ物があるから,アヒルは繁殖し,アヒルの数は増加することがすぐわかる.そうすると,スイレンは大量に食べられて,最後にはアヒルが食べるものはほとんどなくなり,アヒルの数は減る…そうするとスイレンは,どんどん増えて,一回りが完成する.

19世紀末にポアンカレが示した,初期の力学系理論の定理の1つは,運動は,短い過渡的な時間の後には,停止するか,周期的に振動するようになり,それが続いていくという信念を立証しているようにも思える.それは,平面上のベクトル場についての定理である.

この章では,ポアンカレ・ベンディクソンの定理の主要な考え方を説明している.定理を示す方法の中に出てくる考え方は,この系は再帰性を持ちえないということだ:Pを出る軌道は,Pの近くに戻ってくるかもしれないが,(P自身に戻ってこなければ)その後はPの近くには戻ってくることはできないのである.

この定理は,いわゆる力学系の定性的理論の最初のものであるが,平面上のベクトル場に対してのみ適用可能であり,軌道はそのうちに周期的になるか平衡点に近づくという考え方を支持するものである.しかし,ポアンカレは,3次元のベクトル場では,状況はもっともっと豊かで美しいものとなることにすぐに気がついた.やさしい極限サイクルは終わりだ.カオスの世界にようこそ!

このページのPDFファイル

前の章へ 次の章へ

以下のフランス語版の第4章をご覧ください.他の言語を選ぶ,章のリストを見る,字幕のリストを見る,このビデオを利用するためのライセンスの情報を見る,これらのためには,「このビデオについて」のページをご覧ください.